無農薬で健康に食用バラを育てる
土壌診断と食用バラの施肥設計
「バラは無農薬では育たたない」「バラは病害虫に弱い」
そんなイメージがありませんか?
バラに適した環境条件をととのえれば、バラは無農薬で育てられます。
環境には「気象条件」「土壌条件」「生物的条件」の3つの要素があります。
このコラムでは特に「土壌条件」について、食用バラに適した条件づくりを解説します。
目次
1 土壌の役割とは?
食用バラが育つには、適切な量の水や養分が必要です。
水や養分は、食用バラの根が土壌から吸い上げます。
つまり、食用バラの成長には、健全に根を発達させる土壌が必要なのです。
土壌の役割
①食用バラが倒れないように支える
②食用バラの根に水と酸素を供給する
③食用バラの根に養分を供給する(窒素、リン酸、カリなど)
④食用バラに適した環境を保持する(急激な変化を緩衝する)
・地温の変化をやわらげる
・養分やpHの変化をやわらげる
・病原菌の急激な増加をやわらげる
バラの根の役割
2 土壌がダメだと、食用バラはどうなる?
食用バラに適さない土壌でそだてると、収量が下がったり、最悪な場合には枯れることもあります。
単粒の土壌では、土壌粒子同士に結びつきがなく、バラバラの存在です。
通気性、排水性、保水性が低く、しっかりした根を張ることができません。
3 食用バラに適した理想の土壌とは?
食用バラの根が深く、広く伸びると、地上部に適切な水分・養分を送ることができます。
根が深く、広く伸びやすい土壌になるには次の条件が必要です。
1 通気性・排水性・保水性が高い
2 バランスよく肥料成分を含んでいる
3 pHが適正
4 有機物が含まれていて土壌微生物が豊富にいる
通気性・排水性・保水性という一見すると相反する条件を満たすには、土壌が団粒構造である必要があります。
団粒構造はどうやって つくられるのでしょう?
左上から右へ、団粒構造がつくられる過程をしめしています。
有機物(上記の例では落ち葉)が土壌微生物や小動物(ミミズなど)によって分解され
やがて団粒構造の土壌へ変化してゆきます。
団粒構造では
土壌粒子どうしが、微生物がもたらす「糊」によって結びついています。
「糊」によって固まった土壌粒子同士の間にスキマができることで
通気性、排水性がよくなり、一方で「糊」の作用により保水性も生まれるのです。
食用バラの生育に必要な必須元素17種類
必須元素とは、食用バラの生育に欠かせない元素です。
食用バラに必要な量から多量元素と微量元素に区別されています。
必 須 多 量 元 素 9 種 類 | 炭素(C) | 大気中にある二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から供給されるため施肥は不要 | |
水素(H) | |||
酸素(O) | |||
窒素(N) | 肥料三要素 (食用バラが最も多く欲しがる元素) | 窒素は葉や茎を伸長させる。 窒素過多はカルシウム欠乏症を助長し病害虫の被害が増えたり、霜や高温など気象環境への抵抗性を衰えさせる。 窒素不足は食用バラ全体が矮性になり、葉の枚数が増えない。 | |
リン酸(P) | リン酸は食用バラの開花を促進させる。 リン酸過多はマグネシウム・亜鉛・鉄欠乏を招く。 リン酸不足は収量が減る。 | ||
カリウム(K) | カリウムは根の伸長を促進させる。 カリウム過多はカルシウム・マグネシウム欠乏を招く。 カリウム不足は細根(副根)の成長を阻害する。 | ||
カルシウム(Ca) | 二次要素 (肥料三要素の次に食用バラが欲しがる元素) | カルシウムは細胞壁を強化し根の生育も促進する。 カルシウム(石灰)を大量に施肥すると、拮抗作用によりマグネシウムやカルシウムの吸収を抑制する | |
マグネシウム(Mg) | 光合成に必要な葉緑素の構成元素。葉に多く含まれる。 | ||
硫黄(S) | 炭水化物の代謝や葉緑素の生成を助ける。 | ||
必 須 微 量 元 素 8 種 類 | 鉄(Fe) | 光合成に必要な葉緑素の生成に必要。アルカリ性土壌では鉄欠乏が起きやすい。 | |
マンガン(Mn) | 葉緑素の生成、光合成、ビタミンCの合成に必要。アルカリ性土壌や有機物の多い土壌ではマンガン結合が起きやすい。 | ||
ホウ素(B) | 水分の代謝、炭水化物の代謝、窒素代謝に必要。根や新芽の生育を促進する。雨で流亡しやすい。 | ||
亜鉛(Zn) | 葉緑素の生成、オーキシン(植物ホルモン)の生成に必要。亜鉛過多だと新葉が黄色くなる。亜鉛不足だと葉が小さくなったり、変形したり、黄色い斑点がでる。 | ||
モリブデン(Mo) | 最も必要量が少ない元素。窒素の消化吸収を助ける。根粒菌の窒素固定にも必要。 | ||
銅(Cu) | 食用バラ体内の酸化還元、葉緑素の生成に必要。銅が過多だと根の生育障害や古い葉が黄色くなったり鉄欠乏を誘発する。銅不足は、葉が黄白くなったり、褐変したり、よじれが生じる。枝が枯れる場合もある。 | ||
塩素(Cl) | 光合成の際、デンプンなどの合成に必要。塩素が不足すると葉の先端が枯れ、いずれ青銅色になり壊死する。 | ||
ニッケル(Ni) | ニッケル不足だと葉が黄化し、やがて白く枯れる。 |
4 土壌診断のすすめかた
これからバラを育てようとするとき、土壌診断をおこなうことで、
土壌の状態を把握でき、理想の土壌に近づけるための対策をほどこせるようになります。
なお、土壌診断には、
1 病害虫による被害が発生しないように行う「予防診断」
2 病害虫による被害が発生した後に原因を探る「対策診断」
の2種類があります。
それぞれ、どのように行うのかをまとめてみました。
種類 | 診断のタイミング | 土壌を採取する場所 | 採取方法 |
予防診断 | 植えるとき | バラを植える場所の複数個所から同量程度を採取してよく攪拌する | バラの根が伸びる 深さの土を採取する (表土ではなく) |
対策診断 | 病害虫による 被害が発生した時 | 病害虫が発生した場所の土壌を採取する |
5 (事例紹介)土壌診断結果から施肥を設計する
乾燥土100gあたり | 土壌分析結果 | 食用バラの理想値 | コメント | 施肥アドバイス |
pH | 6.9 | 6.0~6.5 | やや高い | 石灰過剰の影響でpHが高くなっている |
有効態窒素 | 10.5 | 3.0 | ー | |
硝酸態窒素 | 1.7 | ~5 | ー | |
アンモニア態窒素 | 2.4 | ~5 | ー | |
リン酸 | 111.0 | 20~50 | 多い | リン酸は多めに残留しているため |
カリ | 119.2 | 101.7 | ー | |
石灰 | 972.9 | 605.7 | 多い | |
苦土 | 1630.0 | 116.1 | ー | |
石灰/苦土比 | 6.2 | 2.6~4.5 | ||
苦土/カリ比 | 2.2 | 2.6~8.7 |
施肥アドバイス |
食用バラの推奨総量 N窒素60kg Pリン酸36kg Kカリ50kg
|
追加したい項目 | 目的 | 食用バラの施肥で使用する資材例 | 家を建てるときに例えると | |
窒素 | N | 食用バラの成長に必要 | ・動物性の糞(例:鶏糞、牛糞、馬糞、魚かす) ・植物性蛋白質(例:おから、油かす) | 木材 |
ミネラル | Ca,Mg,K | 牡蠣殻、草木灰(そうもくばい) | セメント | |
微量要素 | Fe,Mn | インパクトレンチ | ||
有機物・微生物 | 土壌の団粒化に必要 | 稲わら、もみがら、剪定した枝 |
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解説:中井 友實榮 ナカイローズファーム 株式会社バラの学校 代表取締役 農林水産省 農業女子プロジェクトメンバー 2011年東日本大震災をきっかけに食用バラの露地栽培をスタート。 食用バラの普及を通じて心と体を健康にし、社会貢献をめざしています。 |